多焦点眼内レンズが選定療養に
多焦点眼内レンズが先進医療から外れて、一部の多焦点眼内レンズが選定療養の対象になりました。
選定療養とはどのようなものでしょうか?
日本眼科学会において、運用に関しての指針等が示されています。
多焦点眼内レンズに係る選定療養の運用について
厚生労働省が示す令和2年度診療報酬改定の概要において、多焦点眼内レンズに係る選定療養の運用に関する資料が公表されました(118~119頁)。
本選定療養を円滑かつ適切に施行していただくために、以下、上記資料の内容に対する補足を行います。
- 日本眼科学会が定める指針の遵守
『多焦点眼内レンズに係る選定療養に関する指針』に定める施設要件(実施医師の基準、実施機関の基準)、患者選択、患者説明等を遵守してください。- 多焦点眼内レンズに関する研修
実施医師は、日本眼科学会が定める『多焦点眼内レンズに関する基本知識および適正使用について』に基づき研修を行ってください。- 対象となる眼内レンズ
薬事承認された多焦点眼内レンズであって、眼鏡装用率の軽減効果を有するとして承認されたもの、または先進医療の枠組みで評価を受けたものが対象となります。- 患者から徴収する料金
水晶体再建術(1.眼内レンズを挿入する場合、ロ.その他のもの、12,100点)の部分が医療保険の給付対象となり、眼鏡装用率の軽減に係る部分が特別の料金として患者から徴収可能となります(図)。患者から徴収する料金は、以下のように計算してください。
1) 多焦点眼内レンズに係る差額
多焦点眼内レンズの購入価格(製品毎)から、保険診療での水晶体再建術で使用している眼内レンズ(自施設で使用しているもののうち、主なもの)の購入価格を差し引きます。
2) 本療養に必要な検査の費用
通常の水晶体再建術における術前検査に含まれず、かつ本療養に必要と考えられるものとして、角膜形状解析検査(105点)、コントラスト感度検査(207点)の2つがあり、それぞれ術前後各1回の費用を徴収できます。
上記1)と2)を合算したものが標準となります。
図 選定療養のイメージ引用:日本眼科学会より
通常の保険での白内障手術は12,100点つまり手術として121,000円かかるわけです。
これにくわえて、薬剤、前後の診察の費用が掛かってきます。
選定療養で対象の多焦点眼内レンズを選ぶと、レンズの差額代と追加検査624点分が追加で自己負担となるわけです。
このレンズ差額代に関しても、色々と医師側に不都合なことがあるのですが、それは後で解説します。
先進医療はよかった?わるかった?
先進医療のおかげで、いいか悪いかは置いといて、多焦点白内障手術が沢山、日本でおこなわれてきました。
なぜかというと、一番の理由がタダで手術を受けることが出来るからです。
結局のところ、多焦点眼内レンズが優れているからとか、病気で困っている方が多いということでもなく、ほぼ只で手術を受けることができたから、これまで件数が多かったのです。
患者も負担少なく、手術を受けることができる。医師も白内障手術の利益率が格段にアップし、お互いにwin-winのような状態であったのです。
あくまで医師と、ただで手術を受けたい患者においてです。
結局のところ、認められた制度の中で、医師は患者の需要に対してこたえてきただけと考えれば、手術数の増加は自然な流れといえるでしょう。
それが、良いか悪いかというと、医師の理念や感情的な部分もかかわってきて、正解は特にないかもしれません。
ただ、利益が出るというインセンティブが、手術の増加につながっていることは間違いないでしょう。
医療法人の非営利性、つまり利益を求めるものではないといのは、建前であって、個人事業主はもちろん、医療法人の開業医も現実的には商売であることは間違いないのです。
多焦点眼内レンズの選定療養化に伴うネガティブ面 その1
多焦点眼内レンズの旨味を味わっていた眼科医からは、選定療養としてなら多焦点なんてやりたく無いという声がよく聞こえます。
どういうことかといいますと、これまでは患者負担がないので手術費用として50万かかるものでも、ホイホイ患者が手術うけていました。
しかも、本来の白内障手術の適応より、ややというか、かなり早い時期で手術を受ける方が割合として多かったわけです。
眼科医としては、大して濁っていない水晶体の白内障手術なんて、場合によっては殆どフェイコの超音波発振を使用せずとも、吸引でさっと手術できるので時間がかからないという点では楽です。もちろん手術なので細かい気遣いはありますが、それはどんな手術も同じです。
つまり、調子に乗って破嚢さえおこさなければ、短時間で、粗利数十万とれていたわけです。
まず選定療養化に伴う医師側にとってのネガティブな考え方の1つは、
これまでと同じように手術しても利益が減ってしまうのが嫌!
ということでしょう。それが1番かもしれません。
多焦点眼内レンズを扱って、術前・術後の説明や手間・クレーム対応等を考えると値段が割に合わないという方もいるでしょう。
けど、そこまで特別感ありますか?医療ですからね。
そりゃチン氏帯ぐらぐらのmatureだって、結構、嫌なもんです。
もともと期待値が低いので楽だよっていう人もいるかもしれませんが、その考え方もなんでしょうかね。。
浅前房の視力いい人の白内障だって、気をつかうでしょ?オンリーアイならさらに。
他の手術でもそうですが、同じ白内障でも色々あり、手間がかかりリスクが高いものもある中で、保険点数は一緒です。
別に難症例手当なんてつきませんよ。
総括して、手間等で多焦点眼内レンズの手術対価が割に合わないとかは、理由としては現状、無視していいぐらいのものになるわけです。
今までの粗利が良すぎただけなんです。
逆に言うと、プラスアルファに関して求めるのであれば、自由診療でしましょうということなんです。
多焦点レンズの選定療養化に伴うネガティブ面 その2
続いて、選定療養に伴うその他のネガティブ面を見てみます。医師側にとってのですけどね。
掲示と報告
患者から徴収する料金をそれぞれの製品について、本療養の趣旨も含めて、院内の見やすい場所に患者にとって分かりやすい方式で掲示してください。
本療養を実施する場合(内容を変更する場合も含む)は、患者から徴収する料金等の内容について、地方厚生(支)局長に報告が必要です。その際、多焦点眼内レンズ(製品毎)の購入価格と、通常の水晶体再建術で使用している主な眼内レンズの購入価格を示す資料の添付が求められます。
また、本療養を実施した場合は、毎年、その実施状況について、地方厚生(支)局長に報告が必要です。引用:日本眼科学会より
こちらは、日本眼科学会に掲示されている、多焦点眼内レンズの運用に関する指針の続きになります。
何が問題であるかは一般の方にはわかりにくいところですが、
本療養を実施する場合(内容を変更する場合も含む)は、患者から徴収する料金等の内容について、地方厚生(支)局長に報告が必要です。その際、多焦点眼内レンズ(製品毎)の購入価格と、通常の水晶体再建術で使用している主な眼内レンズの購入価格を示す資料の添付が求められます。
この部分が、問題点になる可能性があるのです。
つまり、病院での眼内レンズ購入価格をある程度、外部(地方厚生局)にさらすことになるわけです。
通常の主なレンズとの記載がやや融通を聞かせる部分かもしれませんが、実際の使用実績もきちんと提出するのであれば、ごまかしはききません。
以前にも、眼内レンズの購入価の問題点をあげたこともありますが、病院ごとに全然違うわけなんですね。
あそこは安い、こっちは高い。ほぼ開業医は安く、公的病院は総じてメチャクチャ高い!ってのが一般的で、だれも否定できないと思います。
まず、選定療養の仕組みからいくと、患者の負担分が同じ多焦点レンズを使用しているにもかかわらず、病院により値段が違っていたら、どのようなことが考えられるでしょうか?
つまり、普段使っているレンズの購入価格や多焦点レンズの購入価が異なっているということになります。
例えば、追加負担が高い場合を考えましょう。
その場合は普段の単焦点レンズが安いのを使っている。多焦点レンズの納入価が高めである。その両方が考えられます。
市場原理として何が起こってくるかというと、基本的には相場が生まれ調整が生じます。
その場合において医師側の利益を考えますと、患者の追加負担というのが病院側の利益にならない仕組みなので、二つパターンで利益を追求するしかありません。
1)選定療養をするかどうかは別にして、普段の眼内レンズを安いやつを使う。
2)選定療養する場合は、MS法人で眼内レンズを卸して、差額の利益をMS法人に流す。
このぐらいしか考えられませんね。
ただ、市場論理とすれば、2)のMS法人を流すやり方ですと、メーカーから安く眼内レンズを買わないといけません。
よっぽどたくさん症例がなければ、他でわざわざ高く売れるのであればメーカー側に安くするメリットがあまりないのです。
つまり、いろいろな調整で、メーカーのレンズ代はワンプライス!ってことになることもありえなくもないわけですね。
そうなると多焦点眼内レンズを安く仕入れて、MS法人をとおして、利益差のっけて高く病院に納入するっていう方法が難しい可能性があるわけです。
それを今後どのように回避するのかはわかりませんが、なにかしら対策があるのでしょうか。
一部の開業医での選定療養の追加費用は、例としてアイシー 10万程度、あるところはレンズによりけりで、13万円程度~となっています。
可能性として、通常の保険眼内レンズの納入価が安いものが使われる傾向がさらに進み、
メーカーが通常の単焦点眼内レンズの値段を、病院側からたたかれることになるかもしれません。
眼科手術の問題点 特に白内障手術
その他、問題点としては、コスト削減に伴う、省略化でしょうか。
眼科手術の問題点として、他の科では考えられないような管理で手術がされていることが多いです。
よくあるのは
1)白内障パックの使いまわし
2)眼内灌流液(BSS)の使いまわし
3)ディスポ製品の使いまわし
4)数例、手洗いはしない
公的な病院でも以前は行われていたかもしれませんが、現状は厳しくなり、きちんと指導されているところが多いです。
開業医で多数の白内障手術をしているところは上記の何かにあてはまることが結構あるのでしょうかね。
現状、大丈夫だからいいんだよ!て感じの医師も多いでしょうから、他科の医師や感染症対策の観点からしたらビックリされることでしょう。
1)や2)は当然のようなところがいまだ多いみたいです。
複数の患者は連続して、眼内に入れるフェイコチップやIA先だけ交換し、同じ機械(最近はハンドピースも交換するところも増えてきた。)で同じ吸引パック・灌流液を使用しているみたいです。
3)は本来ディスポ(1回使用)のフェイコチップやメスを滅菌したうえで何度も使用するらしいです。切れ味が悪くなるので、たまに新品を使うと切れすぎてヒヤッとすることがあるそうです。
フェイコチップなんて1万近くしますから、使いまわせば結構なコスト削減になるわけなんです。
4)は手術終了後、手袋をしたままガウンを脱ぎ、手袋を外して、清潔な状態とみなして、再度新しい手袋とガウンをつけるということみたいです。
まぁ利ザヤをできるだけ取ろうとするのは、商売の観点で本来の医業からは多少ズレるのですが、現状、商売なんですよね。
今後、白内障手術の点数が下げられると、このようなことがさらに隠れて横行される可能性もあるわけなんです。
まとめ
総括として、現時点で選定療養として多焦点白内障手術をすることは、あまり、医師側にメリットがないということなんです。
様子を見ている医師も多いでしょう。
先進医療による多焦点バブルがはじけたわけです。
多焦点を力入れて扱うなら、自由診療で手術の特別感をプラスして大金とるしかないわけですね。
普通の社会的な医療という枠をこえた話なわけです。
そもそも上記のような考え方で、手術が考えられているとしたら、一般の方はどう思いますでしょうか??