架空の症例で、病気の理解を深め、診療・治療の流れを紹介する目的のシリーズです。
診療カルテ 005
治療経過例
いつ頃からかはわからないが、1週間前ぐらいに左目でみたときに真ん中が歪んでみえて、かすんで見えることに気が付いた。様子をみても治らないので受診となった。
相談の上、翌週に入院のうえ、左眼白内障手術+硝子体手術を施行した。
L)PEA+IOL+Vitrectomy+ILM removal+20%SF6gas tamponade
型どおりに白内障手術を施行、硝子体手術では、PVDを作成して内境界膜(ILM)を剥離した。乳頭周囲の硝子体癒着は強く、眼内攝子を用いてPVDを完成させた。
網膜裂孔形成は認めなかったため、液ガス置換し、20%SF6gas 置換をして終了した。
体位制限は就寝時まで、可能な範囲でうつ伏せとし、就寝時は30°ギャッジアップとした。
2泊3日で退院とし、黄斑円孔の閉鎖を認めた。
1か月後の矯正視力は右眼(1.5) 左眼(0.6)である。
今後も経過観察を必要とする。
黄斑円孔について
自覚症状は出やすいが、網膜剥離の範囲が狭いと、たまたま眼科受診をした際に気づかれることもある。
(疫学)
女性に多く、通常は片眼に発症する。発症年齢は約65歳。
片眼に黄斑円孔が発症した場合、他眼の発症率は3~29%と言われている。
(診断)
OCTで診断される。
OCTで以下のようにstage分類されている。
stage0 | OCTで硝子体と中心窩の癒着を認める。 |
stage1 | 傍中心窩のPVDは未完成。中心窩と後部硝子体の癒着を認め、軽度牽引を認める。
切迫円孔とよばれる。軽度の歪みを自覚することもある。 |
stage2 | 全層にわたり中心窩の裂孔を認める。円蓋部は中心窩から外れておらず、PVDも起きていない。 |
stage3 | 全層にわたり中心窩の裂孔を認め、中心窩ではPVDが起きている。
視神経乳頭周囲ではPVDはまだ起きていない状態。 |
stage4 | 全層にわたり中心窩の裂孔を認め、完全なPVDが形成されている。 |
(治療)
硝子体手術
硝子体手術で黄斑周囲のILM剥離を行い、ガスタンポナーデを行う。
術後にうつ伏せ等の体位制限を行う。
コメント
OCTにより診断されます。
硝子体手術により、黄斑部分の円孔部分のある程度範囲の内境界膜(ILM)を剥離します。
その後、一般的にはSF6というガスを眼内に入れて術後にうつ伏せを行います。
最近ではガスを使用せずに、空気でも黄斑円孔閉鎖に問題ないとの報告や、術後のうつ伏せは必ずしも必要ないともいわれ来ています。
体位制限には、これという決まったやり方はありませんが、最近では1日うつ伏せを行う施設が多いようです。
その場合は、短期間の入院、または日帰りで手術を行うこともあります。
9割以上で円孔の閉鎖が認められるようになりますが、閉鎖しにくい黄斑円孔もあります。
円孔径が大きい場合や、近視が非常に強い場合には閉鎖しにくいことがあります。
その場合も、内境界膜移植や、flap形成などの方法で閉鎖させることは可能な場合がありますが、視力予後は不良です。
どちらにしても、早期に発見して治療したほうが視力予後は良くなります。
両眼で見ていると、片目のわずかな異常・変化には気づきにくいので、ときどき片目で見て確認することが重要です。
くれぐれも自分の体は自分で考えて責任をもって、いたわってあげて下さい。