架空の症例で、病気の理解を深め、診療・治療の流れを紹介する目的のシリーズです。
診療カルテ 004
治療経過例
受診当日に緊急入院のうえ、緊急手術を施行した。
R)PEA+IOL+Vitrectomy+PC+20%SF6gas tamponade20%
両眼とも近視があったが、右眼のほうが強かった。
手術翌日に左眼の網膜格子状変性に対して網膜光凝固術を施行した。
右眼の裂孔は耳上側1つのみであったため、相談の上、術後安静厳守のもとに2泊3日での退院とした。
1か月後の矯正視力は右眼(1.5) 左眼(1.2)である。
右眼は術後、しばらく鼻下側の見え方に違和感を感じていたが、数か月後には気にならなくなった。
手術時、中心視力良好であり、あえて内境界膜剥離は施行しなかった。
半年後、視力は維持されている。
特に、右眼に黄斑前膜は認めず、再剥離もなく経過良好であった。
今後も経過観察を必要とする。
裂孔原性網膜剥離について
自覚症状は出やすいが、網膜剥離の範囲が狭いと、たまたま眼科受診をした際に気づかれることもある。
(疫学)
年齢として2つのピークがあり、20歳台と50歳台に多い。
(危険因子)
若年者では、強度近視に伴う萎縮円孔が原因のことが多い。
徐々に進行することが多い。
中高年では、後部硝子体剥離に伴う網膜裂孔形成が原因のことが多い。
飛蚊症・光視症を認め、比較的急激に進行する。
(治療)
硝子体手術または強膜内陥術
最近は、依然と比較して硝子体手術による治療が増加している。
若年者では強膜内陥術が選択されることが多い。
コメント
眼底所見により診断されます。
基本的には硝子体手術の適応になることが多いです。
もちろん医師によって強膜内陥術を選択することもありますが、最近は硝子体手術を行う施設が多くなっています。
黄斑部分まで剝がれているかどうかで視力の予後は変わってきます。
黄斑部分が剥がれていない、または剥がれて間もないほうが、術後視力の予後はよいです。
硝子体手術により、裂孔部分の硝子体牽引を解除し、網膜下液を抜いて、裂孔を光凝固で閉鎖します。
その後、一般的にはSF6というガスを眼内に入れて、裂孔部分を抑えて、そこから液体が入らないようにして終了します。
ガスが入っている間は、ほとんど見えません。
手術のみで網膜剥離が治るわけではなく、手術後の安静、体位制限によって、ガスを適切に裂孔にあてることが大事な治療となります。
裂孔の位置によって、手術後のとるべき体の向きは異なります。
ガスが眼の中で上にあがるますので、裂孔が眼の上方にあれば、普通に座ったり立ったりしている状態で、ガスが裂孔にあたることになります。
つまり裂孔が地面に対して上向きになるように、体の向きを保つことが重要になります。
右目の耳側に裂孔がある場合にはそちらを上に、つまり左下側臥位をとります。
今回の症例では、裂孔が右目の耳側の上の方に1個のみあっただけですので、通常の座ったり、立ったりしている状態でガスが裂孔にあたります。
その場合は、短期間の入院、または日帰りで手術を行うこともあります。
一昔前の網膜剥離後の術後管理からすると驚くべきことですが、最近は入院期間が短くなってきている印象です。
網膜剥離の日帰り手術も、状態によりますが増えてきています。
裂孔が眼の下方にあると、やはり網膜剥離が治りにくい傾向があります。
ガスは徐々に減っていき、自分の体で生成される房水に置き換わっていきます。
下側の裂孔はすぐに液体があたる状態となり、再剥離しやすい傾向になります。
その場合は、やはり体位制限をしっかり行うことが重要となります。
場合によっては、ガスではなくシリコンオイルという抜けない物質を眼内に入れて網膜剥離が治ってから再度抜くという方法をとる場合もあります。
1回の手術で100%網膜剥離が治るわけではありません。
難治性の網膜剥離もあり、何度か手術を必要とすることがあります。
放置するとまず失明する病気ですので、根気よく治療を行うことが重要になります。
また、網膜裂孔が生じると、術後、黄斑に膜が張ってくることがあります。
黄斑上膜といいますが、視力低下や歪視(歪んで見えること)の原因になり、手術による加療が必要にあることがあります。
網膜剥離後の黄斑上膜の発生予防に、網膜剥離の手術の時に内境界膜を剥ぐことがあります。
ただ、場合によっては、内境界膜を剥ぐことにより視力が下がるのではないかと思われる症例もあり、視力良好で黄斑が問題ない場合は、あえて内境界膜を剥がない施設も多いです。
これは医師の判断になります。
網膜剥離は90%以上治る疾患です。
早期発見が、視力予後にかかわってきます。
何事も早期発見、早期治療が重要です。
飛蚊症や光視症がある場合(ゴミが飛んだり、光ったり)は早めに眼科で診察を受けましょう。
散瞳検査をしたほうが、より細かく状態を診察できますので、本人は車などを運転せずに受診しましょう。
くれぐれも自分の体は自分で考えて責任をもって、いたわってあげて下さい。