架空の症例で、病気の理解を深め、診療・治療の流れを紹介する目的のシリーズです。
診療カルテ 002
両眼汎網膜光凝固術
治療経過例
右眼にルセンティス硝子体注射を施行。
その後、数回網膜光凝固術施施行後、通院が途絶える。
左眼硝子体出血を認めた。
左眼は新生血管からの出血と、部分的に増殖膜形成を認めた。
糖尿病網膜症について
ある程度、眼底の病状が進行しないかぎり、自覚症状はない。
視力の低下を自覚してきた段階では、糖尿病網膜症が進行している状態で、早急に治療を開始しないと、治療が間に合わない。
途中で通院が途絶することもあり、治療が後手になることが多い。
最終的に、血管新生緑内障となり、失明に至る。
単純糖尿病網膜症 | 軽度網膜出血を認める。
自覚症状なし。 |
前増殖糖尿病網膜症 | 網膜出血の散在を認める。
軟性白斑、網膜浮腫、蛍光眼底造影検査でNPA(無灌流領域)を認める。 黄斑浮腫がないと、自覚症状がないことが多い。 |
増殖糖尿病網膜症 | びまん性網膜浮腫、硝子体出血、増殖組織、牽引性網膜剥離など
視力低下を感じる。 |
<眼底出血をおこす病気>
糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、高血圧症、緑内障、加齢黄斑変性、腎疾患など
(原因)高血糖による代謝障害により網膜血管が障害され、様々な網膜障害を引き起こす。
血糖コントロール、抗VEGF薬硝子体注射、網膜光凝固術、硝子体手術など
黄斑浮腫に対する治療 | 抗VEGF薬硝子体注射(アイリーア、ルセンティス) |
虚血に対する治療 | 網膜光凝固術 |
硝子体出血等の増殖糖尿病網膜症に対する治療 | 上記に合わせて硝子体手術 |
OCTで黄斑浮腫が認められれば、まず抗VEGF薬硝子体注射を行う。
合わせて蛍光眼底造影検査を行い、虚血が確認できたら、新生血管の抑制のために網膜光凝固術を行う。
コメント
既往と眼底所見により診断されます。
前増殖性糖尿病網膜症の状態で、自覚症状がなくても治療を適切に開始し、継続することが重要になります。
蛍光眼底造営検査で血液の流れがない部分(NPA)が認められた場合、そこに網膜光凝固術を行います。
目的は、新生血管の抑制です。
人間の体は、血がいかない部分があると、そこに血を行かそうとして、血管が生えてきます。
これは良いことではなく、悪いことで、そのような新生血管はもともと存在する血管と違って非常に弱く、すぐ破れて出血してしまいます。
これが硝子体出血の原因となります。
この新生血管ができないようにするのが、網膜光凝固術の目的となります。
けして、視力を回復させる治療ではありません。
むしろ治療により視力は下がる傾向にあります。
網膜全体を光凝固する場合、視野が狭くなった感じがでたり、暗いところで視力低下を感じるようになります。
また、途中で黄斑浮腫が出てくることも多く、これにより視力低下をおこします。
また、網膜を焼かないと意味がないので、個人差はありますが、それなりに痛みを伴う治療であります。
視力が良くても、またはやや下がってきている段階で、この網膜光凝固術を開始することが多いです。
この治療をうけていても、視力は良くならず、むしろ下がってきて、かつ痛みも感じる嫌な治療でもあるので、モチベーションを保つことが難しく、ドロップアウト(治療を中断)してしまうことが少なくありません。
基本的に自然治癒する可能性はなく、放置するとまず失明に近づいてい行きます。
そして、治療が遅れると、視力予後も悪くなっていきます。
網膜光凝固術を施行しても、視力は低下するが、しない場合に比べると、数段ましな視力を維持できる可能性があります。
このような治療を行っている施設ですと、その点に関しては、ほぼ100%十分に説明されていますし、血管新生緑内障の危険があるので、ほぼ100%強めに治療をすすめられていることでしょう。
しかしながら、上記の理由により、治療を中断してしまう方が、必ずいらっしゃいます。
やはり家族がいれば、できるだけ一緒に説明を聞くのがよいでしょう。
この症例でも、網膜光凝固術を自己中断し、硝子体出血となり、見えなくなったので再診となっています。
よくあるパターンです。
この段階では正直、治療が、かなり後手となり、視力を維持するのが難しいことが多いです。
もちろん、網膜光凝固術を適切に受けていても、その治療中で硝子体出血を起こすことはあります。
ただ、通院を継続されている場合には、新生血管も放置されているわけではなく、ある程度抑制しながらの出血であり、手術もすぐに対応することができますので、まだ予後が良い場合があります。
この症例では、左眼が悪いパターンで、右眼は、まだましなパターンです。
今後も定期的通院が必要です。
くれぐれも自分の体は自分で考えて責任をもって、いたわってあげて下さい。