診療ファイル 002 眼底出血 糖尿病網膜症 (原因、症状、治療など)

目次

架空の症例で、病気の理解を深め、診療・治療の流れを紹介する目的のシリーズです。

診療カルテ 002

(症例) 50歳 男性
(主訴) 視力が最近落ちてきた。内科で眼科に行くように言われた。
(既往)糖尿病、高血圧、軽度腎機能低下
(所見)
初診時視力:矯正視力 右眼(0.9)左眼(0.6)
眼圧 : 右眼16    左眼14
前眼部:
両眼)角膜透明、前房深い、白内障わずか左右差なし
眼底:
右目 OCT正常範囲
  網膜出血の散在と、硬性白斑・一部軟性白斑を認める
左眼 OCTで軽度漿液性網膜剥離と、軽度CME(嚢胞様黄斑浮腫)を認める
蛍光眼底造影検査で全周にNPA(non perfusion area 無灌流領域)を認める
(診断)両眼前増殖糖尿病網膜症
    左眼糖尿病網膜症による黄斑浮腫
(治療)  左眼抗VEGF薬硝子体注射(アイリーア、ルセンティス)
両眼汎網膜光凝固術

治療経過例

まず、左眼にルセンティス硝子体注射を施行し、その後、両眼の網膜光凝固術を開始。
光凝固術の施行途中に右眼にも黄斑浮腫が出現した。

右眼にルセンティス硝子体注射を施行。

その後、数回網膜光凝固術施施行後、通院が途絶える。

数か月後、左眼が急に見えなくなったという主訴で再度来院。

左眼硝子体出血を認めた。

左眼にルセンティス硝子体注射を施行し、左眼白内障手術・硝子体手術を施行。
左眼は新生血管からの出血と、部分的に増殖膜形成を認めた。
その後、右眼の網膜光凝固術再開するも、途中で右眼も硝子体出血をおこす。
右眼にルセンティス硝子体注射施行し、右眼白内障手術・硝子体手術を施行した。
右眼には増殖膜形成は認めなかった。
黄斑浮腫はなく落ち着いているが、矯正視力は右眼(0.5) 左眼(0.15)となった。
経過観察中

 

糖尿病網膜症について

ある程度、眼底の病状が進行しないかぎり、自覚症状はない。

視力の低下を自覚してきた段階では、糖尿病網膜症が進行している状態で、早急に治療を開始しないと、治療が間に合わない。

糖尿病の患者キャラクターもあり、やや治療が遅れる傾向にある。

途中で通院が途絶することもあり、治療が後手になることが多い。

最終的に、血管新生緑内障となり、失明に至る。

<糖尿病網膜症の種類>
単純糖尿病網膜症 軽度網膜出血を認める。

自覚症状なし。

前増殖糖尿病網膜症 網膜出血の散在を認める。

軟性白斑、網膜浮腫、蛍光眼底造影検査でNPA(無灌流領域)を認める。

黄斑浮腫がないと、自覚症状がないことが多い。

増殖糖尿病網膜症 びまん性網膜浮腫、硝子体出血、増殖組織、牽引性網膜剥離など

視力低下を感じる。

 

 

 

 

 

<眼底出血をおこす病気>

糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、高血圧症、緑内障、加齢黄斑変性、腎疾患など

(原因)高血糖による代謝障害により網膜血管が障害され、様々な網膜障害を引き起こす。

(治療)

血糖コントロール、抗VEGF薬硝子体注射、網膜光凝固術、硝子体手術など

黄斑浮腫に対する治療 抗VEGF薬硝子体注射(アイリーア、ルセンティス)
虚血に対する治療 網膜光凝固術
硝子体出血等の増殖糖尿病網膜症に対する治療 上記に合わせて硝子体手術

OCTで黄斑浮腫が認められれば、まず抗VEGF薬硝子体注射を行う。

合わせて蛍光眼底造影検査を行い、虚血が確認できたら、新生血管の抑制のために網膜光凝固術を行う。

途中で、硝子体出血等がおきれば、硝子体手術を行う。

コメント

第2回目は糖尿病網膜症です。
日本において、失明の原因の第2位とされております。

既往と眼底所見により診断されます。

治療は上記の通りです。
糖尿病網膜症は治療が遅れる傾向にあります。
糖尿病患者のキャラクターにもよりますが、病識に乏しい事が多く、途中で通院が途絶えることも多いです。
病状が進行しない限り自覚症状も乏しく、自己管理能力が低い場合、定期的通院が困難となり、病状の悪化の早期発見が難しくなります。

前増殖性糖尿病網膜症の状態で、自覚症状がなくても治療を適切に開始し、継続することが重要になります。

蛍光眼底造営検査で血液の流れがない部分(NPA)が認められた場合、そこに網膜光凝固術を行います。

目的は、新生血管の抑制です。

人間の体は、血がいかない部分があると、そこに血を行かそうとして、血管が生えてきます。

これは良いことではなく、悪いことで、そのような新生血管はもともと存在する血管と違って非常に弱く、すぐ破れて出血してしまいます。

これが硝子体出血の原因となります。

この新生血管ができないようにするのが、網膜光凝固術の目的となります。

けして、視力を回復させる治療ではありません。

むしろ治療により視力は下がる傾向にあります。

網膜全体を光凝固する場合、視野が狭くなった感じがでたり、暗いところで視力低下を感じるようになります。

また、途中で黄斑浮腫が出てくることも多く、これにより視力低下をおこします。

また、網膜を焼かないと意味がないので、個人差はありますが、それなりに痛みを伴う治療であります。

視力が良くても、またはやや下がってきている段階で、この網膜光凝固術を開始することが多いです。

この治療をうけていても、視力は良くならず、むしろ下がってきて、かつ痛みも感じる嫌な治療でもあるので、モチベーションを保つことが難しく、ドロップアウト(治療を中断)してしまうことが少なくありません。

基本的に自然治癒する可能性はなく、放置するとまず失明に近づいてい行きます。

そして、治療が遅れると、視力予後も悪くなっていきます。

網膜光凝固術を施行しても、視力は低下するが、しない場合に比べると、数段ましな視力を維持できる可能性があります。

このような治療を行っている施設ですと、その点に関しては、ほぼ100%十分に説明されていますし、血管新生緑内障の危険があるので、ほぼ100%強めに治療をすすめられていることでしょう。

しかしながら、上記の理由により、治療を中断してしまう方が、必ずいらっしゃいます。

やはり家族がいれば、できるだけ一緒に説明を聞くのがよいでしょう。

この症例でも、網膜光凝固術を自己中断し、硝子体出血となり、見えなくなったので再診となっています。

よくあるパターンです。

この段階では正直、治療が、かなり後手となり、視力を維持するのが難しいことが多いです。

もちろん、網膜光凝固術を適切に受けていても、その治療中で硝子体出血を起こすことはあります。

ただ、通院を継続されている場合には、新生血管も放置されているわけではなく、ある程度抑制しながらの出血であり、手術もすぐに対応することができますので、まだ予後が良い場合があります。

この症例では、左眼が悪いパターンで、右眼は、まだましなパターンです。

今後も定期的通院が必要です。

くれぐれも自分の体は自分で考えて責任をもって、いたわってあげて下さい。

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この記事を書いた人

常識を無視し、権威を無視し、束縛を無視し
専門医など関係なく叩き上げのスキルと己の魂が私の武器
その名はドクターMAX

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