診療ファイル 001 眼底出血 網膜中心静脈閉塞症 (原因、症状、治療など)

目次

架空の症例で、病気の理解を深め、診療・治療の流れを紹介する目的のシリーズです。

診療カルテ 001

(症例) 50歳 女性
(主訴) 3日前から右目が霞む、見えにくい
(既往)高血圧
(所見)
初診時視力:矯正視力 右眼(0.3)左眼(1.5)
眼圧 : 右眼13    左眼15
前眼部:
両眼)角膜透明、前房深い、白内障わずか左右差なし
眼底:
右目 火炎状の網膜出血、OCTで著明な黄斑浮腫
蛍光眼底造影検査で非虚血型
左目 正常範囲
(診断)右眼網膜中心静脈閉塞症
    右眼網膜中心静脈閉塞症による黄斑浮腫
(治療)  抗VEGF薬硝子体注射(アイリーア、ルセンティス)

治療経過例

アイリーア硝子体注射施行
数日で自覚症状は改善
1週間後のOCTで黄斑浮腫はなし

1ヶ月後診察時、黄斑浮腫なし、右眼矯正視力(1.2)

以後、約2ヶ毎に黄斑浮腫の再発を認め、アイリーア硝子体注射を施行している。

網膜出血は消失

2ヶ月毎に計7回施行しているが、再発は継続している。

7回注射後の右眼矯正視力(1.5)
視力の維持はできている。
経過観察続く

眼底出血

人間ドックや健康診断で眼底カメラによる眼底検査をうけて指摘されることもあります。

症状がない場合、軽度の網膜出血のみのこともありますが、指摘があれば早めの眼科受診をおすすめします。

網膜中心静脈閉塞症の場合は、視力低下、かすみ、変視などの自覚症状が殆どの場合でます。

<眼底出血の種類>
網膜前出血 内境界膜と視神経繊維層の間

後部硝子体膜と内境界膜の間

網膜出血 神経線維層内の出血

外網状層内の出血

網膜下出血 網膜色素上皮とBruch膜の間の出血
脈絡膜出血 脈絡膜での出血

<眼底出血をおこす病気>

糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、高血圧症、緑内障、加齢黄斑変性、腎疾患など

今回の症例である網膜中心静脈閉塞症は、視神経内で網膜静脈が詰まることによって起こる。

網膜中心静脈閉塞症について

(分類)虚血型と非虚血型にわけられる。視力予後が良いのは非虚血型であるが、その中でも1/3の症例が3年以内に虚血型に移行するとされる。

(原因)高血圧、動脈硬化、糖尿病、緑内障などとの関連あり。

(治療)
黄斑浮腫に対する治療と虚血に対する治療に分かれる。
黄斑浮腫に対する治療 抗VEGF薬硝子体注射(アイリーア、ルセンティス)
虚血に対する治療 網膜光凝固術
OCTで黄斑浮腫が認められれば、まず抗VEGF薬硝子体注射が第1選択となる。
合わせて蛍光眼底造影検査を行い、虚血が確認できたら、新生血管の抑制のために網膜光凝固術を行う。
(視力低下の原因)
せき止められた静脈は拡張・蛇行し、網膜全体に火炎状に出血を引き起こす。
それに伴い、黄斑浮腫を引き起こす。
この黄斑浮腫により、その程度によった中心視力の低下を引き起こす。

コメント

第1回目は網膜中心静脈閉塞症です。
網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫は比較的よく遭遇する疾患です。

まず自覚症状が強くでますので、片目が急にかすんで治らない等で受診されます。

眼底所見により、一発で診断されます。

治療は上記の通りです。
昔は、保険適応の硝子体注射がなかったので、アバスチンなどの薬を大学病院を中心に使用していました。

現在は、アイリーアとルセンティスが硝子体注射の薬剤で、両方とも抗VEGF薬になります。

どっち打つの?って話なのですが、どちらも使用されています。

イメージとして、アイリーアのほうが効き目が強め、でも全身移行しやすく、全身への影響がルセンティスに比較してあると言われています。

しかし、どちらも実感的には全身作用があるかどうか微妙なレベルではあります。

脈絡膜より網膜側にルセンティスがとどまりやすく効くだの、全身状態的にもルセンティスがやさしめとか。アイリーアのほうが効果が長いから良いとか、良い物質も阻害するから良くないとかなんとか、まぁ色々いわれております。

どちらの薬剤も保険適応で、対象疾患であるので、医師の裁量と相談で使う薬剤を決めています。

値段はルセンティスのほうがちょっと高いです。でもルセンティスは注射器に薬剤がセットされています。

医師としては、よく効いて、副作用が少なければそれでいいのです。

副作用に関しては、実感レベルでは正直まったくわからないぐらいです。

もともと、この治療を受けられる方は、血管系の病気のリスクが高い人が殆どなので、注射による副作用か、注射に関係なく起きたのか、なかなか正確な判断は難しいです。

実際に硝子体注射を打つ側としては、ルセンティスのほうが楽です。

数件ならいいですが、多いと、薬剤を吸わなくてよいルセンティスのほうが断然楽で安心です。

注射針をセットするだけでOKですからね。

アイリーアは薬瓶から注射器で薬を吸わないといけません。正直、めんどくさいですし、清潔度合いにおいても劣ると言わざるを得ません。

アイリーアも早く注射器のプリセットにしていただきたい次第です。

しかしながら、これらの薬剤、どっちにしても、すごく高いんです。

しかも、悪くなったら打つを繰り返すので、何回も打っている方が多いです。

医療費も圧迫、個人負担もそれなりにかかります。

今回の非虚血型ですが、視力もいいだけに、少しでも浮腫が出れば希望に沿って注射をします。

アイリーア       138,653円/瓶

ルセンティス      157,776円/1キット なんですね。

診療報酬点数なんて、G016 硝子体内注射 580点ですよ。つまり5800円です。

薬代がべらぼうに高いんですね。

しかも1回で効けばいいですが、何回か打つことが多いのです。

注射の打ち方は基本的にはPRN、悪くなったら打つという方針です。

1か月以上あけて適宜に注射するという感じですね。

いつまで打つんだという方もおられます。

正直、患者さん次第です。
保険で認められている以上、適応があれば我々医者は打つことをすすめます。
高いといわれても、どうしようもありません。
いつになったら治るのか?

わかりません。

医療が治癒率100%であれば誰も困りません。

根本的に治らないこともあるのです。

患者さんの希望で打ちたくないということであれば、打ちません。

自然には改善しない可能性が高い、視力が低下する可能性が高いことを説明し、理解してただいたうえで、治療をうけないという選択をされても、それを尊重します。

医者が説得するべきだとかは、この時代に合わない考え方でしょう。

このあたりも医者の考え方次第です。

ただ、血管新生緑内障になるのを避けるようにだけは、治療を受けられたほうがいいですね。

困るのは目に見えていますから。

その点は説得というわけではなく、やや強めに治療をすすめ、詳しく説明します。

網膜光凝固術の治療が特に関係してくるわけですが、それでも治療をうけたくないといわれる方や、そのままドロップアウト、つまり来なくなる方もいらっしゃいます。

これは、ほかの病気ですが、糖尿病網膜症での治療では、よくあることです。悪くなるのは目に見えているのですが、どうしようもありません。

残念ですが、最終的には自己責任になります。

あとで困っても、あのとき医師にもっと強くすすめられていたらとか、説明が十分されていたらとかいうことは思わないようにいたしましょう。

医師の実感としては、どんなに懇切丁寧に説明をおこなっても、高齢者になればなるほど、人にはよりますが、ほとんど理解されていないことが多いです。もちろん、年齢関係なく、理解されていないことはあります。

これは患者さんのキャラクターでかなり決まります。
本当に医師のいいわけではなく、どんなにわかりやすく、専門用語を使わないようにしても、どんなに丁寧に説明しても、同意書にいろいろと説明を書いていても、まったく理解されていない方がいるのです。
もともとまったく聞く気がないのです。説明を受けている時には、うんうん、と相槌をうつ方もおられるわけですが、おそらく内容は聞いておらず、音として聞いているだけで、ただ相槌をうっているだけと思われます。

あとは、はなから、知らん!聞いてもわからん!まかせる!という態度の人ですね。これも困るのです。

やはり家族同伴でしっかり説明を聞いていただくのがいいのですが、やはり、家族が本当にいない方もおられますし、いろいろな事情で家族と疎遠で頼る人がいないことも多々あるというのが現実です。

このような治療を行っている施設ですと、ほぼ100%十分に説明されていますし、血管新生緑内障の危険がある場合、ほぼ100%強めに治療をすすめられていることでしょう。
すすめかたの強い弱いは主観的なもので評価不能です。
網膜中心静脈閉塞症の虚血型は予後不良です。視力も出にくいですし、注射をして黄斑浮腫がひいても視力改善困難です。
網膜光凝固術もほぼ必須ですし、しっかり治療を行わないと血管新生緑内障になって、失明するだけではなく痛みもでて非常に困ります。

医師の説明を適当ではなく、必要以上にしっかり聞きましょう。一人で説明をうけるのではなく、家族がいれば、できるだけ一緒に説明を聞くのがよいでしょう。

くれぐれも自分の体は自分で考えて責任をもって、いたわってあげて下さい。
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この記事を書いた人

常識を無視し、権威を無視し、束縛を無視し
専門医など関係なく叩き上げのスキルと己の魂が私の武器
その名はドクターMAX

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